何気なく手にした近藤史恵さんの作品が面白かったので、代表作を読んでみた。推理というジャンルはそんなに好きではないけれど、舞台がサイクルロードレースということもあって、『サクリファイス』を選んだ。

単なる「チームワーク」とも違い、エースとアシストの役割分担がはっきり分かれている中で、ともに勝利を目指すという微妙に複雑な関係性。主人公に任されたアシストの仕事は興味深いし、それに向けられた気持ちにも共感する。それでいて、時折、チラリと顔をのぞかせる勝利への情熱。

一方、躊躇なくアシストを犠牲にしつつも、その犠牲を忘れることなく背負ったまま、貪欲に勝ちに行くエースの姿も美しい。

勝利はひとりのものではない。この一事に、双方の側から光が当てられて、立体が浮き上がる。


高校の頃、ロードレーサーに初めて乗った時のことを思い出す。あまりにもバランスが良くて、凡庸な運動能力でも、停止状態で立つことができる。ペダルに足を乗せると、リニアモーターで駆動されたみたいに、勝手に車輪が滑ってゆく。グランツールの雰囲気に憧れ、サコッシュを引っかけて登校した日々が懐かしい。

またロードレースを観戦したくなった。